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知識製造業の時代 (第1回)


紺野登氏
1978年、早稲田大学理工学部卒業。株式会社博報堂マーケティングデレィクターを経て、株式会社コラムを設立。千葉大学大学院非常勤講師、北陸先端科学技術大学院大学客員助教授を歴任。知識経営、知識ビジネス、デザイン経営等の分野でコンサルティング、プランニング研究活動に関わっていらっしゃいます。
著書:「デザインマネジメント」日本工業新聞社刊。「知力経営」(共著)「知識資産の経営」日本経済新聞社刊。「知識経営のすすめ」(共著)ちくま書房刊。「日経文庫 ナレッジマネジメント入門」日本経済新聞社刊。

     

企業経営における知識とは

  米国でナレッジマネジメントを推進しているAPQC(米国生産製品品質センター)は「ナレッジマネジメントは完全に実践の時代に入って来た」と言っています。日本では、それなりに本も売れ、関心もあるのですが、正直いうとまだまだ本腰が入っていないと感じられます。

とはいえ、既にあるレベルまで知識経営を具現化している企業もあります。日立、松下電器、SONY、富士通、製薬会社のエーザイ。こうした企業ではトップが知識の重要性を説いており、みなさん苦労しながら実践しています。
トヨタの場合、奥田会長がこんなことをおっしゃっています。
「人間の知恵をITなどでコンピュータ技術に転換していく部分が増えていますが、やはりゼロになることはない。人間のノウハウ、暗黙知の部分は最後まで残ります
最近トヨタは企業理念を「トヨタウェイ」という形でまとめ直しましたが、そこでもこの暗黙知の重要性を挙げており、組織内の知識がトヨタの持っている本質的な力だという認識がうかがえます。

知識の中には、今申しました暗黙知と形式知がありますが、基礎は暗黙知です。
優秀な会社は他社にない知識をもっているからこそパフォーマンスを上げられるわけですが、その知識はなかなか言葉に出来ないんです。例えば名人といわれる職人さんとか営業の達人・開発の達人が持っているノウハウは、言葉で説明してくれといっても全てを表現できるものではありません。言葉ではいえない。でもその人がやるとうまく行く。これがその人が持つ「暗黙知」です。暗黙知は、身体的な経験を通じて習得したものが多く、技能や文化慣習となっている事もあります。

一方、我々は他の人に言葉で伝えられる知識も持っています。これを形式知と言います。形式知は社会的で、客観的です。今生み出される知、ではなく、すでに言葉にされた過去の知。ただし言葉にすることによって移動や伝達が可能になった知識です。

   
 
     

暗黙知からの価値創造プロセス

 

知識経営においては、この暗黙知と形式知をいかに相互作用させ新しい価値を生み出すかということが最も重要です。表出されずにいた暗黙知から新しい価値が創出されるプロセスを見てみましょう。

まず、共同化、Socializationと呼ばれるプロセスです。顧客と対話したり経験を共有したり、社内の同僚や関連部門の人と触れ合ったり。こういう身体的な関わりを通じ、五感を駆使して、わたしたちは他者の暗黙の知識を直接吸収できます。そして、それまでの暗黙知が一緒になって、新しい暗黙知が内部に生まれます。デザインの達人が別のジャンルの達人とコラボレーションすることで全く新しいデザインを生み出すというのもこの例です。

次にこういった暗黙知を形式知化する段階。表出化、Externalizationと呼びます。プランナーやデザイナーや営業マン、誰でも、暗黙知を持った人たちがお互いに言葉をぶつけ合い、対話をし、考え、新しいコンセプトやデザインとして、暗黙知を言語化または視覚化していく過程です。

次が連結化、Combinationです。これは言語化された、あるいはデザインとして視覚化された形式知を、別の形式知と組み合わせる過程です。この段階ではITが、非常に重要なしかもスピーディなツールになります。

それから4つ目は内面化、Internalizationです。やはり人間は体で理解し、知識が腑に落ちないとなかなか行動が取れません。内面化というのは、作られた形式知を自らの暗黙知として自分の中に取り込むプロセスです。
例えばサービス業ではこの内面化が決定的な競争力になります。サービスマニュアルを徹底的に復習することで自然と身につくようにする。その内面化を通じて、組織に新しい知識が共有されていくわけです。

このような知識プロセスはそれぞれの頭文字をとってSECI(セキ)モデルと呼びます。これは一度回ったら終わりではなく、スパイラル状に何回も回りながらダイナミックに動き、イノベーション・問題解決・コンセプト作りのような企業価値の源泉になっていくのです。

   
 
   

知識経営の3つのレベル

  企業が知識を経営に活かす場合、3つのレベルがあります。

まず、組織内でSECIモデルを駆動させ、さらにITを活用しながら新しい知識を生み出す、といった組織的レベル。そこでは企業なりの知の作法が大事になります。インテルは新製品開発にはナレッジマネジメントが不可欠と考えていますが、何か問題があると積極的に対立をして議論し、徹底的に問題を潰すカルチャーを作っている。アンディ・グローブ元会長は「パラノイアでなければ生き残れない」と言っていますが、まさにその体現といえます。

2つ目は、その知識を自社製品にとどまらず、顧客にサービスとして提供するレベルです。ソリューションはその例ですし、EMSのように、自社の製造知識をサービスとして他社に提供するという形態もあります。

3番目は、ノウハウをライセンスにして、直接収益を得る方法です。半導体産業でいうとランバス社のような形です。インテルのペンティアム4のデザインの基本的部分は同社がデザインで、ライセンスフィーを得る形を取っています。ブランドも知識資産であり、知識から価値を得るという視点が重要になります。

   
 
     

少子化とコモディティ化

  このような知識の時代の製造業のあり方を考えるにあたって、背景となる潮流をみてみたいと思います。

第一は、先進国の少子化という問題です。どんどん少子化が進んでいて、止まる気配がありません。世界的にみると日本だけでなく、先進国全部が下がっています。一番低いのはどこだと思いますか?イタリアが一番低いんです。合計特殊出生率が1.2。このままでは100年くらいでイタリアがなくなるかもしれないという値です。実は次に低いのが日本です。日本は1億人いますから100年ではなくならないけれども、かなり厳しい。
先進国の少子化は何を意味するかというと、自国市場での量産製造の道がふさがれる、ということです。そうでない国もあります。中国ですね。中国は自国内生産ができる。自国内でも量産して、ダブル効果での低価格で輸出されれば先進国は全く勝ち目がないでしょう。
わたしたちは、少なくとも20世紀の量産型モノづくり発想というのはすぐにやめなくてはいけない。米国は1990年代初頭に「これまでの量産製造業では競争力は回復されない」と議会が答申して、インターネット、シリコンバレー等の政策を打ち出しました。ところが、日本はまだどこかで量産型のモノづくりにしがみついているように思います。

もう一つ大きな背景がコモディティ化です。コモディティというのは日用品という意味ですが、高品質の物がどんどん安くなっていく、付加価値を失うという現象です。インターネットはすべてを日用品化する最大の力であるといわれています。ハードウエアでも、明示的なスペック、つまり形式知でただ量産しているだけでは、瞬時にコピーされてしまいます。
こういう時代には企業組織内の知識、組織内での個人能力の集積が重要になります。知識なんて、見えなくて抽象的で曖昧でいかがわしいものですけれども、そういう目に見えない暗黙知こそが唯一模倣されないものなんです。

少子化による購買層の減少とコモディティ化を考えると、質の高い知識を埋め込んだ、サービスのプラットフォームとなる製品を作ることが必然の戦略となります。携帯電話なんかももちろんそうなっています。
住宅産業も同じではないかと思います。ただ建てて売っても儲からなくなって、需要も細っている。今は産業的にはリフォームのほうにシフトしています。そして、住宅はスケルトンとして、その上に載せるコンテンツやソフトで儲ける、あるいはライフサイクルサポートで儲ける。つまり売った時だけでなく、使っている時を含めたビジネスモデルに変わりつつあるのです。

   
 
     
     
    第2回につづく・・・
     
     
     

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