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金型内流動解析 (溶融樹脂と溶融金属) (第3回)


平林 繁氏
日本ユニシスにおいて金型内の樹脂と金属の流動解析システムを開発。金型の解析システム開発と受託解析の会社 (株)ザ・ワークスを設立 代表取締役。 本稿は前半で金型内における樹脂と金属の流れがいかに違うかについて言及しています。後半は最近よく見かけるボクセル解析について、その問題点を単純なモデルで説明しています。日本計算工学会講演会のセッション「日本発のソフトウェア」で発表したものです。

     

5.金属流動解析におけるFDMとFEM

   最初に述べたように、現在金属流動解析の商用ソフトの多くが直交格子分割による差分法を採用しており、このことが解析精度を著しく低下させている事実が充分認識されていない。この問題点を実例を挙げ詳述する。前章までに金型内流動解析では先端の自由表面の移動が特に重要であり、途中で誤差が入ると局所的に留まらず大局的に波及することを述べた。 直交格子分割による差分法のシステムは製品の曲面形状をガタガタの階段形状に要素分割する。本来滑らかな形状に対し,人為的なガタガタ形状に低粘性の金属溶湯(水も同じ)が衝突すると溶湯の拡散、エネルギーの損失、流速の低下をもたらすことは明らかである。曲面形状を近似したガタガタ形状に連続して衝突していくと完全に溶湯は拡散して、本来低粘性流体の特徴である慣性流れ(直進流)の特徴は消え、むしろ高粘性流体の粘性流れ(拡散流)に近くなる。

 このような状況を端的に示すため、最近R30テストというテストモデルを提唱している。市販されているソフトはこのテストモデルを解析して、その精度を公表すべきであると考える。R30テストは100 X 100、厚さ3.5mmの平板2枚を直角に連結後、連結部分にR30のRがけを行ったモデルである。一方の平板端面中央20mmから流速40m/secで溶湯を流入させたとき、R部分を溶湯がどのように流れるかのテストである。なお、要素分割は板厚方向を3層に分割している。R30の曲面部分を直交分割するとガタガタの階段状になる。

 一方非直交分割では近似的に曲面形状に近い要素分割が可能である。現在市販されている差分法ソフトでこのモデルを解析すると流れがR部分に到達後,人為的なガタガタ形状に衝突して溶湯は拡散する。左右に拡散した流れはそのまま流速を落とさず左右へ直進するが,流入方向に拡散した流れは更に階段形状に衝突するため、拡散と流速の低下を繰り返す。結局R部分を通過して反対側の平板へ流出することができず、完全に左右へ流れが分岐してしまう。図3は直交分割のモデルを「METAL FILL」で解析したものである。
一方非直交分割したモデルでは、流れがR部分に到達すると最外層で若干の拡散が見られるが,主流は20mmの巾を維持しながら、反対側の平板へ流出する。(図4)
   
 
   
図3 R30テスト(直交分割)
図4 R30テスト(非直交分割)
   
  なお、市販のFDMのソフトで要素分割サイズをさらに小さくして、肉厚方向を5層、10層に細分割してテストもしたが,流れはほとんど変化なく、完全に左右へ分岐した。これは要素サイズを小さくしても、R部分の階段の段数が増え、衝突の回数が増えるだけのためと考えられる。実際の製品形状でもこの現象を確認するため,円筒状のダイカスト部品を直交,非直交分割を行い解析結果を比較した。非直交分割ではゲートから流出した溶湯は円筒面上を左右へ強く流れ、上面へはほとんど流出しない(図5)。一方直交分割では円筒面がガタガタ形状に分割されるため、ゲートから左右へ流出した溶湯は衝突を繰り返しながら流速は低下し、その代わりに上面に強く流出する結果となった。(図6)
   
 
   
図5 円筒形状の流動解析(非直交分割)
図6 円筒形状の流動解析(FDM)
   
  基本的に直交分割による差分法の解析は円筒面のように分割方向に流れが強制的に沿うか,球面のような分割方向が明確ではない場合,完全に溶湯は拡散して同心円のように広がり,樹脂流動の流れに近くなる。水や金属のような低粘性流体の慣性流れを解析するには,できるだけ正確な製品形状が必須であるというのが結論である。

 以上,直交分割による差分法(ボクセル解析)の問題点を流動解析で詳述したが,更に鋳造における冷却過程の解析である凝固解析でもこの問題点を指摘しておきたい。凝固解析は溶湯の充填が完了した後,金型や砂型によって高温の鋳物が冷却していく過程を相変化を伴う非定常熱伝導熱伝達問題として解析する。この場合も曲面形状を有する製品を直交格子分割すると,製品と型との境界面がガタガタの階段状になる。型による冷却能力をみるとき重要な要素が型と製品(鋳物)が接触する面積(伝熱面積)である。直交分割の場合,伝熱面積を正確に表現できない。図7のように分割方向に対し,45度傾いた境界面では最大40%程度の伝熱面積が大きくなる。伝熱面積が大きくなると当然冷却は促進され,他の条件が同じでも分割方向に対し,何度傾いているかで鋳物の冷却速度が異なってしまうという奇妙な解析結果になる。更に重要なことは,図7に示すように要素の分割サイズを小さくした場合,この問題は解消されるかという疑問である。直交分割AとBで伝熱面積は全く変わらない事実に注目すべきである。
   
 
 
図7 凝固解析における直交分割
   
  図8,9は円筒面形状の鋳物の凝固解析例である。外径50mm厚さ5mm、非直交は肉厚方向を5分割、直交のモデルは10分割している。非直交分割であるFEMの解析では,円周方向の温度は一様で差はみられない(図8)。直交分割を採用したFDMの解析では円周方向で冷却速度に大きな差が生ずる。分割方向で温度が高く,分割方向に対し45度傾いた面で最も低くなる(図9)。初期温度650度に対し,最低温度は非直交で440度、直交分割で376度である。
   
 
   
図8 円筒形状の凝固解析(非直交分割)
図9 筒形状の凝固解析(直交分割)
   
   以上,直交分割による解析(ボクセル解析)の問題点を詳述した。FEM解析の常識として要素サイズを小さくしていけば解析の精度は向上していくが,ボクセル解析はこの常識が当てはまらない。個々の解析分野でボクセルの手法が本当に正しいか,詳細に吟味する必要がある。
   

6.おわりに

   型内流動解析の分野で15年以上仕事をしてきたわけであるが,金属流動解析では世界に先駆け実用ソフトを開発できたことを幸運に感じている。この分野はまだ発展途上であり,本文に述べたように課題も多いのが現状である。今後も金型内流動解析の発展に微力ながら貢献していきたいと考えている。
   
   
    「金型内流動解析 (溶融樹脂と溶融金属)」はこれで終了です。
     
     

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